October 30, 2004
中原中也詩集 / 中原中也 吉田凞生編
月夜の浜辺
月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。
それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、
月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。
それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
月に向つてそれは
浪に向つてそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。
月夜の晩に、拾つたボタンは
指先に
月夜の晩に、拾つたボタンは
どうしてそれが、捨てられようか?
―― 新潮文庫「中原中也詩集/在りし日の歌」より引用
"中原中也詩集 / 中原中也 吉田凞生編"へのコメントはまだありません。