October 22, 2005
萩原朔太郎詩集 / 萩原朔太郎 三好達治選
珈琲店醉月
坂を登らんとして渇きに耐えず
鎗踉として醉月の
狼藉たる店の中より
破れしレコードは鳴り響き
場末の煤ぼけたる電氣の影に
貧しき酒瓶の列を立てたり。
ああ この暗い愁も久しいかな!
我れまさに年老いて家郷なく
妻子離散して孤獨なり
いかんぞまた漂泊の悔を知らむ。
女等群がりて卓を圍み
我れの醉態を見て憫みしが
たちまち罵りて財布を奪ひ
殘りなく
―― 岩波文庫「萩原朔太郎詩集/氷島」より引用
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